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2012-05-29

ゆび祭り

 供物として膳に盛られた人の指のようなもの。あれは焼き菓子なのだそうだ。あまり生々しくは見えないよう、ある程度簡素に作られているそうだが、遠目から見るとやはりどこか異様に思えた。指の大きさ、形にされた焼き菓子に、爪として端にうっすらと白い飴が塗られている。神主の祈祷が終わったあと、それは社に集まった者たちに振る舞われる。

 巫女服姿の十四、五の女の子に小皿を差し出され、私はそれを軽く会釈しながら受け取った。小皿には小さな和紙が敷いてあり、その上に焼き菓子が一本載っていた。周りからはすでに焼き菓子を噛み砕くさくさくという音が響いており、特に作法もないようなので、私も同じように指の形をしたそれを口に運んだ。ほのかに甘く、しかし市販の焼き菓子よりもずっと甘味は抑えてあるようだった。あまり甘くてもありがたみがなさそうなので、これはこういうものなのだろう。

 食べ終わって社から出ていく人もちらほらと見受けられ、必要な儀式はこれで終わりのようだった。私自身部外者ということもあり、焼き菓子の残りを口の中に押し込むと、倣うように社の出口へ向かった。その途中、親戚らしき男性と話をしていた彼女が私を見つけ、話を切り上げてポニーテールを揺らしながら駆け寄ってきた。

「どうでした?」

 彼女が小さく首を傾けて言う。ここは彼女が生まれ育った村だ。私が住んでいる場所からは電車を乗り継いで四時間ほどかかる。

 彼女は大学の後輩に当たる。あるとき、彼女の村に「ゆび祭り」という奇妙な祭りがあることを聞き、また、ちょうど里帰りの時期にその祭りがあるとも漏らしたので、それに同行させてもらえるように頼んだのだった。私はこうした地方の祭りや伝承を見聞きするのが趣味で、似たようなことは何度かやっていた。

「興味深かったよ」

 そう言いながら靴を履いていると、彼女は土間を見渡して自分の靴を探した。外を案内してくれるつもりなのかもしれない。

「まあ、どこにでもあるお祭りですけど」

「いや、けっこう珍しいんじゃないかな」

「うーん、そうですか? あたしとしてはそう珍しいものだとは……」

「まあね。その土地の人間にとっては、珍しくも何ともないものかもしれないけどね」

 社の正面にある短い石段を下りると、左右に夜店が立ち並ぶ石畳に出た。焼きそばやわた飴、射的や金魚すくい、夜店の種類に珍しいものはなかった。村の人口がどのくらいなのかはわからないが、それなりに人は混み合っていた。

「ずうっと昔は、また違う感じだったと思うんですけどね。あたしのころは、お祭りの前に『ゆび巫女』っていうのを選ぶんですよ。村の子供の中から、毎年一人」

「へえ」

 彼女の話を聞きながら、私はすれ違った老女を目で追っていた。老女は黒い手袋をはめていた。見渡すと、人混みの中に手袋をはめた人間を何人か見つけた。年配の人に多いようだった。

「あたしも選ばれたんですけどね。確か……、十二のときに。十五歳以下の子供の中から選ばれるんです」

「へえ、ゆび巫女。……で、その、ゆび巫女に選ばれるとどうなるの?」

 そういえば、焼き菓子を配っていた、あの巫女服姿の女の子も白い手袋をはめていた。

「ゆび巫女はですね、指を……あっ」

 話の途中で彼女は空を見上げた。つられて私も見上げると、目の横に冷たい何かが落ちてきた。

「雨……ですね」

「雨だね」

「うーん、本降りにはならないって、天気予報では言ってましたけど」

「あんまりあてにならないからなあ、天気予報は」

「ですね」

 彼女は雨を確かめるように、てのひらを空に向ける。その紺色の手袋をはめた彼女の手にも、また雨がぽつりと落ちた。